「二重生活」という映画をみた。
出ている俳優さんたちが大好きだから何となく…
お話としては女子大生が論文を書くために人を「尾行」するお話。
人の内面の部分だけで綴られたお話なので独特の香りがした。
この映画の事も語ろうかと思いましたが、それよりも私には気になる事があった。
それはこの映画の中で出てくるキーワード
ソフィ・カルの「本当の話」
どうやら人を尾行するお話が書いてあるようだ。
この映画のように、なにかしらの感情も持たない相手を尾行するような事が書かれているのか…
それからこの本を探してみた。
そこで1番に目に入ったのがこれだ。
ちょっと本の値段を見てほしい。
一万八百円。
…
なんじゃこれ??
絶版なのか??
仕方ないので、図書館で借りようと試みる。
ネットで検索すると、書庫資料となっている。
ひい。書庫の奥に隠してあるあれ?
重要本?いまや高額だから???
それとも相当ヤバイ本?
古い阿部定本もあそこに入ってるもんなあ…
でも借りられるようなので、借りる予約をした。
時間がかかったがやっと来た。
すぐ読む。
おどろくほどサラッと早く読める本ではあった。
しかしソフィさんは、最初の1Pからぎゅっと私の心をつかんだ。
なんだろう。
あたりまえのように、周りに漂う空気のように私の周りを取り囲んだって感じかな。
偶然出会った男性を尾行するために旅立つ冒頭にはいたたまれないくらいドキドキした。
いやいや、これはとても異常なお話だ。
恋愛感情もない男性を尾行して、ただただ同行を記す。
彼を追っている間の自分の行動が淡々と書かれているだけ。
ただ、ここで気になるのが…
1Pに一つ以上、写真が入っている。
書いてある文章通りの写真で、やけに生々しい。
本当に尾行している人が撮っている写真のようだ。
追っている彼の後ろ姿、彼の視線の先の風景。
あれ?
これマジもの?
これマジものだったらかなりヤバイよね…
演出???
だったらすごい。
でもこの本を読んでいると、この写真は本物だと信じて疑わないリアルさなのだ。
一番リアルさを感じたのが、顔を隠そうとした彼の写真。
この写真は本物なんだなと私に信じ込ませた。
この写真たちが私たちを彼女と同化してしまう媒体として大きく作用する。
尾行中は、もしかして彼女は彼を好きになってしまったのではないかと思える発言がちらほらある。
それにも関わらず、彼の旅が終わると彼女はアッサリ尾行をやめてジ・エンド
もやもやするような、これが正しいような気持ちになる。
次に彼女は私立探偵に自分を尾行させる。
自分のその日一日の動向を事細かに書いている。その時自分が考えていたことも交えて。
その章の次には私立探偵からの自分の尾行の報告書が載っている。
異常なほどの箇条書きと彼女が記していた事との相違に驚く。
(尾行写真はリアルだが)
仕事としての尾行と興味をもっての尾行との違いなのかと感じた。
最後の章は「本当の話」
自分の小さいころからの思い出が1Pごとに写真とともに記されている。
ここもやばかった。
ストリッパーだった頃の話
殺されかけた話
祖母の話
中には見るんじゃなかった的な事故のような写真も含まれている。
これはまじですか?みたいな大胆なものもありました。
ま、これは書庫だな!書庫!👈確信
最後まで読んで、生活感があまりないことに気づく。
映画の「二重生活」もそうだ。
足元より高い位置で吹く風のように生きている人みたいなイメージ。
これを読んで前に読んだ「マルグリット・デュラス」や「ジャン・ジュネ」を思い出す。
フランスのにおいだ。
幼いころはフランスの香りといえば「ベルサイユのばら」しかなく華やかでかぐわしいものだった。
しかし、ジュネを読んでしまうとそんなイメージはきれいに消えてしまう。
彼の本からは、暗くて不潔な路地裏のにおいがする。
どこもかしこも、うら寂しく絶望しかない。
デュラスはアンニュイのきわみ。
苦しんで、もがいているのにそれが表面に現れていなくて美しい。
運河と香水をつけていない女性の肌のにおいを感じる。
そんな二つのにおいを混ぜ合わせて、さらにソフィのドライさというか
無機質な香りがプラスされたものを私は嗅いだ気がする。
行ってみたこともないフランスの香りを頭の中でブレンドしてみる。
香水のようにかぐわしいものではなく
川や道端、カフェ、パン、そして人々の体臭と秋の空気のブレンドみたいな。
それが私のフランスの香りだ。